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稲富博士のスコッチノート

第49章 キルマリッド・ブレンド・ボトリング・プラント

キルマリッド・ブレンド・ボトリング・プラント:広大な敷地にウイスキーの払い出しと樽詰め、ブレンド、ボトリング、製品倉庫、事務所が分散配置され、各棟はブリッジでつながれている。

グラスゴーの西、ダンバートン(Dumbarton)に、ダンバートン・グレーン蒸溜所とブレンド・ボトリング・プラントの複合施設が完成したのは 1938年のことである。以来、バランタイン・ウイスキーのブレンドとボトリングはダンバートンで行われてきたが、1970年代の需要の急増を受け、 1975年に会社、当時のHiram Walker(Scotland)Ltdは、新しいブレンド・ボトリング・プラントを建設することを決定した。敷地面積47万平方メートルの建設地は、ダンバートンからリーヴェン川の上流数kmのキルマリッド(Kilmalid)である。

キルマリッド・プラントにグレーン・ウイスキーの蒸溜施設はないが、ここもいくつかの機能をもつ複合プラントである。1977 年に最初に操業を開始した作業は、熟成した原酒の樽空け、ブレンド、ブレンドされたウイスキーの瓶詰プラントへの出荷、蒸溜所からニュー・メイク・スピリッツ(蒸溜されたばかりの原酒)を受入れて樽詰め、樽詰め原酒の貯蔵庫への出荷であった。1982年には、ブレンデッド・ウイスキーの冷却濾過施設とクライド・ホール瓶詰工場が完成し、この年の7月に最初のボトリングが行われた。2001年には新しい瓶詰棟(リーヴェン・ホール)と事務所棟が完成している。

キルマリッドは大規模な生産施設であるが、ここはまたブレンダーの感性の技と近代的な生産方式が出会うところでもある。ウイスキーの品質目標とそれを作り出すレシピの開発・改定、ブレンドされたウイスキーの品質管理はあくまでマスター・ブレンダーとそのスタッフの鼻と舌、香味の記憶とブレンドのスキルに拠っているのである。

バランタインのブレンドとブレンダー

バランタインの第5代目マスター・ブレンダー、サンディー・ヒスロップさん:近代産業にあっても、ブレンドはアート(芸)で、思想や技は先輩と長年共に働くことで継承される。ヒスロップさんは、前任のロバート・ヒックスさんと20年以上共に働き、極意を伝授された。

バランタイン・ブレンデッド・ウイスキーの品質には、スタンダード・クラスのファイネストから最上級の30年ものまで一貫しているスタイルがある。ソフトでバランスがよく、味わいは複層的な複雑さを持ち甘め、花、林檎、蜂蜜、バニラ、クリーム、オーク材等と表現されるフレーバーの特徴を持つ。エレガントで洗練され、古い時代のスコッチの味わいとは異なる新しいスタイルである。

バランタイン・ブレンデッド・ウイスキーのマスター・ブレンダーは、今までに5人を数える。ジェームス・ホーン(James Horn)、ジョージ・ロバートソン(George Robertson)、ジャック・ガウディ(Jack Goudy)、ロバート・ヒックス(Robert Hicks)そして2006年にヒックスの跡を継いだサンディー・ヒスロップ(Sandy Hyslop)である。会社を創設したジョージ・バランタインと彼の子息や孫、バランタインから会社を引き継いだジェームス・バークレー(James Barkley)とマッキンレー(R. A. McKinlay)は、当然ブレンドに関わったと考えられるが、公式にはオーナーか経営者で、現在的な意味でのプロフェッショナルなマスター・ブレンダーの地位ではなかったようである。

バランタイン・スタイルの確立

Ballantine's 17 Years Old:1937年に開発された。ヴァニラ、クリーミー、ハニー様などの特徴をもつ。甘さの中に、オークの香りやピートの香味が感じられ、味を引き締めている。バランスがよく、洗練されたBallantine's Styleの極致。

バランタイン第4代マスターブレンダー、ロバート・ヒックスさん:日本でもおなじみヒックスさんは、2005年に引退するまで35年間ブレンダー/マスター・ブレンダーを勤め、その間のバランタインのめざましい躍進に大きな功績を残した。

バランタイン・ブレンデッド・ウイスキーの品質が確立されたのはいつ頃だろうか。創業者のジョージ・バランタインは自分のブレンデッド・ウイスキーを創始、彼のブレンドはウイスキーの事業を引き継いだ彼の息子たちに引き継がれて行き、1910年頃に「バランタイン ファイネスト(Ballantine's Finest)」が開発されている。

1922年、将来の事を考えた創業家は、バランタイン社をバークレーとマッキンレーに譲る。新たなオーナーであり経営者になったバークレー、マッキンレーはウイスキーやワインに造詣深く優れた評価能力を持っており、当然自社のブレンドの品質に深く関わっていたが、彼らの下でマスター・ブレンダーして働いたのはジェームス・ホーン(James Horn)とジョージ・ロバートソン(George Robertson)であった。

1935年、バランタイン社はカナダに本拠をおくハイラム・ウォーカー社に移るが、バークレー、ホーンとローバートソンの3人はそのままバランタイン社に残り仕事を続けた。ロバートソンは、ハイラム・ウォーカー社の傘下に入ったバランタイン社最初のマスター・ブレンダーに就任した。1937年にこの3人は禁酒法が明け、市場が活性かしていたアメリカ市場向けに「バランタイン 17年(Ballantine's 17 Years Old)」を開発した。長い禁酒法時代(1920-1933年)に持ち続けた原酒はたっぷり熟成しており、その熟成したモルトとグレーンを使ったのである。そのAge、品質の高さと独自のスタイルは画期的で、ブレンダーの技の究極の作品とされる。

その後も、バランタインの経営者とマスター・ブレンダーは先人たちの残したブレンドのノウ・ハウを引き継いで独自のスタイルを固め、品質を向上させていった。ロバートソンからマスター・ブレンダーを引き継いだジャック・ガウディー(Jack Gaudy)とガウディーの後のロバート・ヒックス(Robert Hicks)両マスター・ブレンダーは過去50年の間、バランタイン・ブランドの大躍進に偉大な功績を残した。

ブレンダーの仕事

ブレンダーの仕事は多岐に亘るが、一言でいえば‘品質にかかわることは全て'である。新製品の開発は、クリエーターとしてのブレンダーにとって挑戦的で遣り甲斐があり心躍る仕事であるが、最も時間と労力をかけているのは品質の管理であり、製品品質の安定性(Consistency)の確保である。近年、お客さまの利き酒能力や知識は大きく向上し、‘顧客が期待されている品質をお届けする'ということが最も大切な仕事になっているのである。

品質を管理すべきアイテムは、製品ウイスキーは当然として、ブレンドに使用する樽の原酒、ブレンド行程にある中間製品、蒸溜されたモルトとグレーンのニュー・メイク、樽から原料麦芽に及ぶ。

ブレンドに使用する熟成した原酒は、通常1パッチのブレンドに使用する数百丁の樽の原酒を一度にチェックする。アシスタントが樽から原酒をノージング・グラスに注ぐとマスター・ブレンダーは香りを嗅ぎ異常がないかどうか瞬間に判断する。前マスター・ブレンダーのヒックスによると、この判断はほとんど本能的なのだそうで、長年の経験で脳に刻みこまれた記憶と照合して瞬時に判断、数百丁の樽のチェックは40分程度で完了するという。

モルトのニュー・メイクの品質のチェックのために、マスター・ブレンダーは毎週火曜日にスペイサイドへ出かけ、蒸溜所のマネージャーや品質管理スタッフなどと傘下の全ての蒸溜所で前週に蒸溜されたニュー・メイクをブラインドでチェックする。もし何か問題が見つかれば、その日のうちに原因を見つけて解決する。“こうやっておけば、後で楽だからね"とヒスロップは言うが、これは日本が得意とする品質管理でいう源流管理そのものである。

尚、このテースティングに参加するには、メンバーは毎年テースティング能力をチェックするテストを受け合格する必要があるという。マスター・ブレンダーでも例外ではないそうである。

生産工程

樽のアッセンブリー:1回のブレンドに使われる熟成原酒の樽が集められたところである。蒸溜所や樽種の異なるモルトがブレンドのレシピに従って集められている。

原酒の払い出しトラフ:樽は、最奥右側からこのトラフに入ってきて、作業員が抜栓、ウイスキーの流れ出しをスムースにするブリーザーを挿入、樽を回転させてウイスキーを下のトラフに流出させる。

クライド・ボトリング・ホール:キルマリッドにあるボトリング・ホールの1つ。1982年に完成した。7ラインのボトリングラインがある。

アートの極ともいえるブレンダーの仕事が終わって製品にする樽が決まると、ブレンドとボトリングの作業工程は、エンジニアリングとシステム工学の世界になる。

1975年の計画時から、キルマリッドのブレンド・ボトリング・プラントは、最新の技術を導入し、品質管理・保証はもとより、高い生産性、タイムリーな出荷を目標に設計された。ブランド、中味、容量、ラベル、カートンが異なる何千種もの製品の生産、その為の中味と包材の供給、製品の自動倉庫へ搬入と迅速な出荷を行うシステムは非常に複雑で高度な技術が要求された。建設コストも数百億円にのぼったが、バランタイン・ウイスキーの将来性を確信していた役員会議は、プロジェクトの責任者だった当時のハイラム・ウォーカー(スコットランド)社長のアリスター・カニンガム(Alistair Cunningham)の提案を一時間後に承認したという。1982年の完成当時はもとより、現在でも世界最新鋭の工場である。

ブレンドを構成する多くの蒸溜所の樽はまずアッセンブリーに並べられる。1回のブレンドに使用される樽数は400-800丁にのぼる。マスター・ブレンダーが承認した樽はコンベアーに乗ってトラフ(払い出し溝)に運ばれそこで樽栓を抜き、樽を回転させるとトラフにウイスキーが流れ出るので、これを原酒タンクに送る。モルトとグレーンは別々のタンクに受けてから再度品質をチェックし所要量をブレンド・タンクに送ってブレンドされる。アルコール分を調整し、1-2週間寝かせてから瓶詰される。

瓶詰製品はブランド毎にパレットに積み自動倉庫に格納する。多くのラインから流れてくる製品を自動的に分別し、パレットに載せ、倉庫に格納、又注文に応じて倉庫から必要な製品のパレットを取り出して大型トラックに積載する作業がほぼ無人で行われていて圧巻である。

キルマリッドのボトリングはヨーロッパでも有数の規模を誇る。今では、ウイスキーだけでなく、ビーフィーター・ジン、マリブ・リキュールなどの生産も行われており、瓶詰ライン数15、従業員470人、年間生産能力は12百万ケース(750mlx12本入り換算)である。

1. The Ballantine's Story. Jonathan Mantle, George Ballantine & son Ltd 1991.
2. 『ザ・スコッチ』- バランタイン17年物語(グレアム・ノウン著/マイケル・ジャクソン序/田辺希久子訳):英語版 The Scotch, The Story of Ballantine's 17 Years Old . TBSブリタニカ, 1996.
3. 「Ballantine's」バランタインを知る/マスターブレンダー
4. 「Ballantine's」バランタインを知る/バランタインの歴史
5. サントリー製品情報:『ザ・スコッチ』バランタイン17年物語
6. Ballantine's review :AWA - Alternative Whisky Academy
7. whiskynews :Blog.com