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Whisky Galore 土屋守編集長インタビュー
「バランタイン17年 トリビュートリリース」発売記念

バランタイン マスターブレンダー
サンディー・ヒスロップ氏に聞く

1937年に誕生した、史上最も長い歴史を誇る17年物ウイスキー。
「バランタイン17年」の80周年を記念して、5月23日に日本市場限定でリリースされた「バランタイン17年 トリビュートリリース」。
ブレンデッドスコッチの名門が紡ぐ新たな伝説、この特別なバランタインについて、5代目マスターブレンダーのサンディー・ヒスロップ氏に編集長が聞いた。
文=西田嘉孝    写真=藤田明弓、渋谷寛、大丸剛史

歴史ある名門ブランドの節目を飾る日本市場限定の特別なバランタイン

────今回、「バランタイン17年 トリビュートリリース」が日本市場限定で発売されました。この商品をリリースされたきっかけについて、特になぜ日本市場だけで発売しようとお考えになったのかを教えていただけますか。

ヒスロップ バランタイン17年は1937年に発売され、今年で80周年を迎えます。そうした記念すべき年に相応しい〝特別なウイスキーを造りたい〞という思いから生まれたのが、今回の「バランタイン17年 トリビュートリリース」になります。なぜ日本市場限定なのかというと、このバランタインの歴史と伝統に敬意を表した特別な商品を、日本のウイスキーファンが最も評価してくれるだろうと考えたからです。そもそもバランタインにとって日本は非常に重要なマーケットであり、特に17年物はとても多くの方にご好評をいただいていますからね。

────バランタインの特長として、よくスイートかつフルーティ、ソフトでラウンドといった表現がされます。今回の商品ではよりリッチなフルーティさが強調されているとのことですが、特別な原酒の使用など、通常のバランタイン17年と大きく異なる点を教えてください。

ヒスロップ 原酒について言うと、グレンバーギーの比率を上げることで、よりリッチでフルーティな甘みに加え、熟したジャムのように芳醇な甘さを強調しました。また、ミルトンダフの比率を抑えることで、従来の17年物に比べてパワフルさを少し控えめにしています。熟成に使用する樽についても、ヨーロピアンオーク樽原酒や、ファーストフィルのアメリカンオーク樽原酒を強調することで、よりクリーミーな味わいを実現しました。

バランタイン17年 キーモルトの役割

────バランタインのキーモルトとしては、スペイサイドのグレンバーギーやミルトンダフなどはよく知られています。17年物には他にも特徴的な原酒がいくつか使われていたと思いますが、現在のバランタインの中心となる原酒について教えていただけますか。

ヒスロップ もちろんすべての原酒やレシピをお教えすることはできませんが、たとえばアイランズモルトならスキャパ、他のスペイサイドモルトならグレントファーズなどがバランタインのキーモルトとなります。スキャパについては、トロピカルフルーツのように華やかでフルーティな印象を、グレントファーズはスムースで滑らかな味わいや深い余韻を、バランタインにもたらしてくれます。

────そうしたキーモルトを含め、バランタインには数十種類以上もの原酒が使用されているかと思います。それらの原酒の配合を決めるレシピについては、時代とともに変化させているのですか?

ヒスロップ 17年物をはじめとするバランタイン製品のレシピについては、毎年11月に見直しを行い、若干の微調整を加えています。とはいえ、その目的は〝変わらない味わいとクオリティの製品を提供する〞ためであり、変化を求めるものではありません。特にバランタイン17年は、世界で最も歴史のある17年熟成のブレンデッドウイスキーですからね。歴史や伝統を継承しながらこのウイスキーを守り続けていくことは、私の仕事における最も大きなチャレンジであり、大切な役目だと思っています。

徹底した原酒管理で守られる伝統 シンボルのシナガチョウはいま?

────20年前に、当時グレーンウイスキー蒸溜所のあったダンバートンを訪れ、先代マスターブレンダーであるロバート・ヒックスさんとヒスロップさんにお会いしています。そのときにヒックスさんが、「バランタインのマスターブレンダーは後継者を早くから決めて一緒に仕事をする」と言っていました。当時はまさにヒスロップさんがヒックスさんと一緒に働いておられたわけですが、ヒスロップさんの後継者についてもすでに決まっているのですか?

ヒスロップ 懐かしいですね(笑)。確かに私がマスターブレンダーを継承するにあたり、先代のロバート・ヒックスや先々代のジャック・ガウディが早くから直々に指導してくれました。それと同じように、私もいまは次の後継者候補であるブレンダーたちと一緒にチームで仕事をしています。

────そのなかから次のマスターブレンダーが誕生するわけですね。ダンバートン工場はすでに閉鎖になってしまいましたが、現在のバランタインのブレンダー室はどこにあるのですか?

ヒスロップ ダンバートンのグレーンウイスキー蒸溜所などは閉鎖になりましたが、キルマリッドの生産施設は現在も使われています。ファイネストから30年物まで、バランタインファミリーのブレンド管理などについてはすべてそちらで行っています。とはいえ、我々のチームがずっとキルマリッドにいるわけではなく、毎週、スペイサイドに行ってそれぞれの蒸溜所のニューメイクをチェックしています。さらには熟成に使用する樽についても、私自身がアメリカやスペインに行って買い付けを行っています。まさにウイスキーの蒸溜から熟成まで、すべてのプロセスに関わり、バランタインの品質を厳しく管理しているわけです。

────現在のバランタインの親会社であるペルノリカール社はスペイサイドに13の蒸溜所を所有しています。それらの蒸溜所のニューメイクを、ヒスロップさんのチームが熟成にまわす前にチェックされるということですね。

ヒスロップ 我々のグループの蒸溜所だけでなく、バランタインに使用するすべての原酒について事前にチェックを行い、バランタインに相応しい原酒のみを熟成工程にまわしています。熟成については、我々はスコットランド中に365ヵ所の貯蔵庫を所有しており、バランタインに使用される原酒はすべてそれらの貯蔵庫に分散して熟成を行っています。

────すべての貯蔵庫に原酒を分散させるのは、リスクヘッジのためですか?

ヒスロップ その通りです。多くの貯蔵庫に分散させておけば、もし自然災害や火事などでひとつの貯蔵庫がダメージを受けたとしても、同じエリアにある原酒を使うことができますからね。

────バランタインといえばダンバックの集中貯蔵庫で飼われていた番犬ならぬ〝番鳥〞のシナガチョウが有名でした(笑)。ダンバックの熟成庫やあのシナガチョウたちはいまどうなっているのですか?

ヒスロップ ダンバックの熟成庫は現在も使用していますが、シナガチョウたちは約10年前に野生へと戻りました。ですから、彼らはいま自由に自然のなかを飛び回っていると思います(笑)

────それは知りませんでした。バランタインのシナガチョウといえばシンボルのようなものだったので、驚きました(笑)。当時から飼育するのは大変だというお話は聞いていましたが。

ヒスロップ ええ、相当ないたずら好きで困ることも多かったですからね。それにガチョウたちにとっても、自然のなかで自由に暮らす方がきっと幸せだと思います。

────なるほど。いまやガチョウたちの存在は、バランタインの素晴らしい歴史の一部、伝説になったわけですね。

伝統を継承しながら革新を体現する5代目マスターブレンダーの矜持

────ヒスロップさんも一緒にお仕事をされたジャック・ガウディさんやロバート・ヒックスさんなど、バランタインは数々の伝説的なブレンダーを輩出してきました。彼らから受け継ぐ伝統の重みについて、どのようにお感じになっていますか?

ヒスロップ 私がウイスキー業界に入って今年で34年になりますが、その間に最も大きな影響を受けた人物がジャック・ガウディです。彼の品質管理に対する徹底した姿勢や、変わらないクオリティの製品を世に出し続けるというスピリットに私は大きな影響を受け、現在のマスターブレンダーとしての仕事にもそれは受け継がれています。加えて、先代のマスターブレンダーが引退する際には、私に最高の状態でバランタインブランドを継承させてくれました。ですから私としても、彼らから受け継いだバランタインを変わらずに提供するとともに、次の後継者には最高の状態でマスターブレンダーを引き継いでもらいたい。そうすることが私の大きな使命だと考えています。

────伝統の継承に加え、ヒスロップさんはいくつかの新製品も手掛けてこられました。そうしたブランドの革新性についても意識されているのでしょうか。

ヒスロップ 私のマスターブレンダーとしての仕事の8割はバランタインブランドの品質維持ですが、残りの2割については新製品の開発も重要な仕事だと思っています。リミテッド物を含め、すでにバランタインファミリーの新たなラインナップをいくつか手掛けさせていただいていますが、なかでも「バランタイン マスターズ」については、創業者のジョージ・バランタインではなく私自身の署名が入ったラベルデザインになっています。こちらは日本と韓国のプレミアム市場限定の製品ですが、こうした製品を世に送り出せたことは大変に幸運であり、とても誇りに思っています。

新商品の発売を記念してヒスロップ氏によるセミナーが開催された。当日はバランタインのファイネスト、17年、トリビュートリリースのほか、構成原酒であるスキャパ、グレンバーギー、ミルトンダフも振る舞われた。

日本のウイスキーファンに贈られる華やかで贅沢な17年物ブレンデッド

────今回の「バランタイン17年 トリビュートリリース」も日本のウイスキーファンに向けたものですが、ヒスロップさんから見て日本のウイスキーファンの印象はいかがですか?

ヒスロップ 日本の皆さんの情熱と知識は本当に素晴らしく、来日するたびに感銘を受けます。ウイスキーの製造工程について大変に精通されていたり、蒸溜や熟成といった細かな工程についても知識が豊富な方がとても多い印象です。

────そうした日本の飲み手を意識した点としては、今回の製品ではどのような特徴があげられますか?

ヒスロップ 日本の皆さんはいろいろなスタイルでウイスキーを楽しまれますから、度数をやや高めの48%とすることで、水やソーダで割っても香味が崩れないようなブレンドを意識しました。ですから、ストレートはもちろん水割りでもハイボールでも、さまざまな飲み方で楽しんでいただけると思います。

────ストレートで飲んでも非常にフルーティでリッチですよね。ファーストフィルのアメリカンオークもよく効いているように思います。ヒスロップさんが個人的に、おすすめしたい飲み方はありますか?

ヒスロップ 私は少量の水を加えるのが好きですね。土屋さんが仰るようなリッチでフルーティなフレーバーが、水を加えることでさらに開いてきます。芳醇で華やかなフルーツやマーマレード、さらにはトフィーのような甘さも感じていただけるのではないでしょうか。

────まさに芳醇でフルーティですね。水を加えると少しピートも感じます。

ヒスロップ ええ、フィニッシュはスイートで、かすかなピートもありますね。私自身はこうした飲み方が好きですが、ハイボールやカクテルにしても、このウイスキーが持つ豊かなフルーティさや芳醇な甘さを存分に楽しんでいただけると思います。

────なるほど、確かにいろいろな飲み方を試してみたくなるウイスキーですね。「バランタイン17年 トリビュートリリース」は日本市場のみ2000ケース限定のリリースとのことですが、今回のような特定の国に向けた特別なバランタインのリリースというのは、これまでにもあったのですか?

ヒスロップ 今回が初めてですね。我々としても初めてのチャレンジでしたから、日本マーケットのリサーチなどを行いながら約2年をかけて製品の開発を行いました。この「バランタイン17年 トリビュートリリース」の開発は、私にとっても非常に楽しい体験でしたね。バランタイン17年の80周年を記念した特別で貴重なウイスキーになりますので、ぜひ日本の皆さんにお楽しみいただければと思います。

────本当にスペシャルな一本ですね。日本のウイスキーファンを代表してお礼を言わせてもらいます(笑)。

サンディー・ヒスロップ
1983年から30年以上にわたってウイスキー業界に携わる。1992年にバランタインのブレンダーとなり、先代のロバート・ヒックス氏引退後、2006年に5代目マスターブレンダーに就任。2016年にはISC(International Spirits Challenge)にて「マスターブレンダー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。

この記事はウイスキー文化研究所より刊行のWhisky Galore Vol.3(2017年7月号)に掲載された一部を、同社の許可を得て転載したのものです。