2010年9月。暑かった夏の名残漂うサントリー山崎蒸溜所に、海を越えて一人の紳士が訪ねて来た。サンディー・ヒスロップ氏。バランタイン社の若き5代目マスターブレンダーである。ウイスキーの故郷スコットランドから熱い想いとメッセージを携えての初来日。案内役として出迎えたのはサントリーのチーフブレンダー、輿水精一氏。2人のトップブレンダーは肩を並べて蒸溜所を歩き、互いの流儀を確認するように短い会話をいくつか交わした後、あらためて対話のテーブルに着いた。言葉は響き合い、ブレンドされ、芳醇に匂い立った。まるで彼らのつくるウイスキーのように。
(取材/構成 松本創)
(撮影 渡部恭弘)
第1章スコッチとジャパニーズ、出会う 『When Scotland and Japan Meet』
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ようこそ山崎蒸溜所へお越しくださいました。サンディーさんは初めての来日だそうですが、実は私は以前に一度お会いしているんですよ。1997年にスコットランドのダンバートン蒸溜所で。私はチーフブレンダーになる前で、官能調査官(テイスティングのスペシャリスト)の現地研修に同行した時のことです(と、写真を見せる)。
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そうでしたね。もう13年も前になりますか。あはは、この写真の私はまだボーイですね(笑)。ロバート・ヒックス(バランタインの4代目マスターブレンダー)の下で修業していた頃です。
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今日こうして日本の蒸溜所を初めて見ていただいたわけですが、いかがでしたか。
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まず驚いたことに、仕込や蒸溜などつくりの過程から貯蔵庫での品質管理に至るまで、スコットランドのやり方とほとんど変わらない。貯蔵庫を出た所にある池のほとりの風景などは、まるでハイランド(スコットランド北部)の湿原のようでした。もっとも竹は生えていませんが(笑)。
ここ5年ほどでしょうか、日本のウイスキーが歴史と権威あるヨーロッパの賞を受け、スコットランドやイングランドでも注目度が高まっています。いまや、『響』や『山崎』は日本の高級ウイスキーの代名詞になっていますが、こういう環境でつくられていたんですね。私は、ウイスキーについては「アノラック」(日本語でいうオタク)ですから(笑)、すべてが興味深かったです。
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私たちはずっとウイスキーの故郷であるスコットランドをお手本にしてきたわけで、つくり方はもちろんのこと、味わいの面でもそうです。バランタインの特徴といえば、香りの華やかさと滑らかな口当たり。非常に複雑でありながら、とてもバランスの取れたスムーズな飲み口というのは、サントリーでも大切にし、目指してきたことなんです。ただ、スコッチウイスキーならではの穀物由来の旨さといいますか、力強さやボディーの厚みといった点は、ちょっとわれわれにはない、真似できないものだと感じています。
一つには、日本ではウイスキーが食事中に飲まれることが多いという理由があります。スモーキーあるいはウッディな香りは、強調しすぎると料理とケンカをしてしまう。しかも、水割りやハイボールで飲まれる方が多いので、ブレンダーとしてはそういう飲み方を強く意識しながらテイストを決めていくことになる。そのあたりが、スコットランドと日本のウイスキーの違いに表れているんじゃないでしょうか。
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味わいの厚みや複雑さを生み出す一つの要因として、スコットランドでは、各地に点在する他社の蒸溜所の原酒を使うのですが、日本ではどうなんでしょう。
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日本では、他社の原酒を使うということはほとんどないですね。自前の蒸溜所と貯蔵庫を持っていて、私たちだと、山崎蒸溜所とその原酒を貯蔵している滋賀、それから山梨の白州蒸溜所。この2、3カ所の原酒を使います。西と東では平均気温が5度ぐらい違いますから、熟成のスピードも、いわゆる「天使の分け前」なんかも変わってきます。
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5度というと、スコットランドのハイランドとローランド(スコットランド南部)と同じぐらいの気温差ですね。温度が高いほど熟成は早いですし、私の感覚では、樽の材質の影響も受けやすいと思う。そのバランスを見極めるのが大切なところだと思います。
スコットランドでは他社の原酒を使うと言いましたが、われわれバランタイン社の場合は樽詰めされる前の、いわゆるニューポット(蒸溜したての原酒)の段階で購入するんです。それを自前の樽に、自分たちのやり方で詰め、熟成する間に「バランタイン・スタイル」になるよう貯蔵・管理していきます。たとえばグレーンウイスキーの一つは、ガーヴァンという蒸溜所から購入しているんですが、われわれ独自の方法で熟成させるので、もとの蒸溜所とはまったく異なる味わいになります。樽詰め前から原酒をコントロールし、バランタイン・スタイルに熟成させる。ここが最も重要な点です。そのため、われわれはスコットランド全土に100カ所以上の貯蔵庫を持っています。例えばハイランドにある蒸溜所からは毎週、ローランドのグラスゴー(バランタインの本拠地)にタンカーで原酒が届きますし、ハイランドの中だけでも同じようなやり取りをしています。多数の貯蔵庫を持つことは、リスク分散の点でも意味がありますしね。
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100カ所以上というのはすごいですね。ところで、スコットランドでは温暖化は問題になっていますか。日本は今年、大変な猛暑で、そのおかげでハイボール人気が盛り上がったりもしたのですが。
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いいえ、温暖化の影響はまだそれほど出ていないですね。日本も、来る前には「猛烈な暑さで地獄のようだ」と聞かされていたのですが(笑)、実際に来てみると、想像したより過ごしやすくてホッとしていますよ。
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サンディー・ヒスロップSandy Hyslop1965年スコットランド生まれ。バランタインの長い歴史に、マスターブレンダーの名を記すのはわずか5名。 1983年に入社後、1992年には伝説の第3代マスターブレンダー、ジャック・ガウディーの元で修行を開始、更に4代目ロバート・ヒックスの下でブレンダーとして必要な全ての知識を身につける。2005年ヒックス引退後、第5代マスターブレンダーに就任。所有する全ての樽・原酒管理、ブレンド作業の責任を負う。 |
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輿水精一Seiichi Koshimizu1949年山梨県甲府生まれ。山梨大学工学部発酵生産学科卒業。73年サントリー入社。多摩川工場でのブレンドグループを経て、76年より研究センターでウイスキーの貯蔵・熟成の研究に従事。85年より山崎蒸溜所で品質管理、貯蔵部門を担当した後91年よりブレンダー室課長となる。 |















